瑠璃子が下高井戸に居を定めてまずはじめにおこなったことは、下高井戸シネマの友の会に入会することであったことよ、と古文翻訳調に懐かしく思い出すのであります。
まっとうな京王線ユーザーならば、しばらく前まで京王線車内の「京王紀行」なる沿線の名所紹介ポスターに、下高井戸シネマが載っていたことをご記憶かと思います。
入会後一年は映画を見ないと夜も日も明けない感じに通っていたけれど、ふと飯田橋にあるギンレイシネマと料金を比較すると、
ギンレイシネマ…年間10500円で映画見放題
下高井戸シネマ…年会費3500円の友の会会員は鑑賞料900円、その他無料チケットがチラホラ
う~む、ギンレイ方式に明らかに心傾く瑠璃子がいる…
とはいえ、ギンレイシネマのどちらかというと娯楽作寄りのラインナップや、2週間に一度しか上映作品が変らない点よりは、毎週作品が変り、文芸作品や古い名画も遠慮なく上映する下高井戸シネマの方が圧倒的に映画館として瑠璃子の琴線に触れるのは確か。
こうなると是非にも下高井戸シネマにも年間パスポートを作ってほしいなと思うのであります。
上映作品数がギンレイの2~3倍は下らない忙しい映画館だから、年会費も25000円くらいまでなら加入したい人は大勢いるはず。
現行の友の会会員制度は、5回見ると1枚無料チケットがもらえる仕組みだったはずで、そうなると単純な計算は出来ないけれど、25000円÷1500円(大人の1回の通常鑑賞料)=16~17回で元が取れる。もしくは映画館側としては年に一度16~17回分の入場料が一挙に入金される。
映画館側にとっても悪くない話だと思うのだけれどな~。
まあそれをやらなくてもファンがたくさん来館するすごい映画館、ということなのではありましょう。
さて。
しばらく足が遠のいていた下高井戸シネマに愛らしいサンダル履きで久しぶりに入場。
見たのは平野勝之監督『監督失格』。
AV女優の林由美香との交流といいましょうか、生と死を家族や同僚や監督自身はいかに受けとめたかそして実は受け止め切れていなかったその死をいかにして克服していくかとでもいったドキュメンタリー映画で、瑠璃子はこれが下高井戸シネマにかかっていることを、つい数日前、下高井戸駅の掲示で見つけたのでした。
以前『毒婦マチルダ』という、『監督失格』にも出てくる某女流監督のナントモイエナイ映画を見たことがありました。その女性監督はとあるドキュメンタリー映画の被写体となって、北海道の自転車旅行を敢行したことがあるとのことでした。
そのことが頭の片隅に記憶として残っており、『監督失格』の「北海道の自転車旅行」云々を見たとき、「おや?」と心に引っかかったのです。
その某女流監督との自転車旅行の監督が『監督失格』の平野勝之監督であり、そして彼がそんなドキュメンタリーを撮った理由は、…とこのあたりから『監督失格』の重要な内容に踏み込んでいくのであり、
「これは見ておきたい」
と興味を抱いたのです。
いや、この映画を見るにいたった原因は他にもいくつかあり、林由美香が早くに亡くなった極めて印象的な目の、AVにとどまらない存在感のある女優であったことなどもそこに含まれ、
「これは見るしかない。たぶん、いや絶対、何かとても痛々しくもどこか人間の本質をえぐった作品に違いない」
と期待し、確信し、そして上映後そのことが証明されたのだ、と深く感じました。
いい映画を見た後は、いつも町の姿が変って見えます。
そして今晩もそうでした。
下高井戸シネマHP
http://shimotakaidocinema.com/