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まぐろ人 「鮭三種盛り」400円程度




さて、前回の投稿をご覧になった方ならよくご存知のとおり、瑠璃子と、瑠璃子の妹分にしてリアル妹のゾル豚中将(ぞるとんちゅうじょう)は中華帝国の食の歴史を堪能しつくしたのであった。

カランカランと扉の鐘を響かせ、天上の皇庭餃子房から下高井戸の雑踏へ出る。
腹と心が満ち足りていて、このままどこまでも歩いていきたい。

「それにしても満足し尽くしたねえ、中将?」
「さいですかね」
「中華帝国の食の歴史には圧倒されるよ。中華の前には小日本の惨めさばかりがクロースアップされるねえ」
「ふん」
「身も心も中華色に染まったから、もうこのままアヘン窟の片隅でヨイヨイになって物故しても悔いはないねえ」
「けっ」
どうも中将の様子がおかしい。
「どうしたの、中将」

「ふん!姉貴、いつからそんなに中華の走狗になっちまったんですかい?あっしもそりゃ中華料理は好きだ。だが脂っこすぎてよくねえ。こちとらちゃきちゃきの江戸っ子よ。どうしたって銀シャリで腹を満たさなきゃあお天道様の下は歩かれねえ!」
「妙なことをいうね。中華の走狗?中華を崇め奉るのになんの問題があるだろう。中華は文明の母だ」
「へん、母だか父だか知りませんがね、こちとら銀シャリ詰めにゃあ腹はくちくならねえんだい!」
「中将、ひとつ言っておくが・・・」
時節柄、尖閣諸島に話題が及びそうになって、勢い下高井戸西友前でも姉妹紛争が勃発の危機だ。

そこへニコニコとした布袋腹の老人がひょっこりと現れて声をかけてきた。
「これこれ、食事のことで言い争いをしてはいけませんぞ、お嬢さん方。食事はにっこり幸せの素じゃ。ほれ見なされ、そこの回転寿司屋「まぐろ人」で食事をしているみなの笑顔。あれこそが正しい食事のマナーというものじゃよ」
「ご老人・・・!」
「おやおや、お立ちなさいお嬢さん。涙を拭いて。せっかくの美しい顔が台無しじゃ」
「美女の泣き顔は絵になると思っていますが、そういっていただいたのだから泣き止みます。ご老人、お言葉、身に染みました。これで瑠璃子と妹のゾル豚中将は再び下の仲良し姉妹に戻れます。『笑顔こそが食事のマナー』。まこと心を打たれました。ありがとうございます。せめてお名前を」
「ほっほっほ、名乗るほどのものではないが、人はワシをまぐろ老人と呼ぶ」
急に風が吹いたかと思うと、老人は夢か幻のように消えうせていた。後に残ったのは瑠璃子とゾル豚中将ばかり。
その二人を、ガラス張りの「まぐろ人」の明かりが明々と照らし出している。
「中将、入ろうか。へへへ」
「そうでげすね、げへへへ」

そんなわけで二人は皇庭餃子房の五分後にまぐろ人に入店したあせる
満腹なのにあせる


それにしてもまぐろ人は人気のお店である。
下高井戸の寿司屋といえば、元マクドナルドの隣に鎮座する旭寿司がめっぽう有名らしいのだが、線路の北側に住んでいる瑠璃子としては、回転寿司とはいえ「まぐろ人」の満員御礼ぶりにいつも驚かされていた。
土日の夕方から夜ともなると、ガラス張りの店内から外の商店街まで二三十人が行列を作って、寿司の回転を見ようとわくわくして順番を待っている。
回転寿司に対する根深い軽蔑の気持ちがいつの頃か瑠璃子には芽生えていたので、その行列を見るたび、下高井戸の食の貧困を嘆き、下高井戸住民のエンゲル係数向上を天に祈り続けてきた。

ところが中将と入店してみて、瑠璃子はにわかにまぐろ人シンパと成り果てたのである。
並ぶの、わかる!
回転寿司といっても、値段も味もそんじょそこらの寿司とは桁が違う。
これは美味である。

だいたい回転寿司といっても高級なお勧めネタはめったに回ってないから(入店が遅かったせいもあるだろうが)、瑠璃子と中将はとうとう回転ベルトのお世話にはならずに、板さんに「うにひとつ!」「アンキモひとつ!」と直接注文していたのであったあせる
そのことを思えば寿司屋のカウンターに安価で坐ったということも出来る。インテリアとしてたまたま目の前をベルトが回っていたに過ぎないあせる

腹は満ちていたが、おいしいものは別腹なのであった。
中将には中華腹と和腹があるのかもしれない。

生サバ、生シラス、鮭、アンキモ、カワハギの肝和え、うに、青柳等を分け合って食べて、会計は二人で2600円ほど。

高いといえば高いが、要は満足するかである。われら二人は満足の満足を重ねて、家路に就いた。


ところで皿の自動計算機を初めて見た。
バーコード読み取り機みたいなのを皿の山にかざすと、たちどころに「9皿、2600円ですね~」と答えが出てくるらしい。
いっぺん使わせてみてほしい。
どういう原理なのだろうか。
そして製造会社はほかにどんなものを作っているのだろうか。



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カワハギの肝和え(?) 500円強