CM音楽についてのヘンテコな記事も一応最終回の予定。
今回は瑠璃子お嬢様ご幼少のみぎりのお話――。




「ねえ、じいや。るりこってかぁいい?」
「ええ、可愛らしくてらっしゃいますとも。瑠璃子お嬢様」
「う~ふ~ふ~
昔々。瑠璃子がまだ頑是ない幼女だった頃。
映画をテレビから録画した古いビデオを見ていたら、途中にCMが挟まった。
「ダイヤモンドは永遠の輝き」のキャッチコピーを伴って、怖いような駆り立てられるようなカッコいい音楽が流れた。
雷に打たれた気分だったわ。
それ以来その曲がなんであるかをずっとずっと知りたくて、でもどのように調べたらいいかもわからなくて長く苦しんだわ。

「じいや!ねえ、このきょくをきいてほちいの!ききおぼえはないかちら!」
「ほっほっほ、瑠璃子お嬢様が繰り返し聴いてらっしゃるものですから、爺やもすっかり覚えてしまいましたよ」
わがままな瑠璃子はひっくり返ってわんわん泣いたわね。

弦楽のドラマ。盛り上がっていく切迫感と、その果ての飛翔。
その曲調に急かされるように、瑠璃子はひたすらこの曲の正体を欲したの。
「ああ、早くこの曲の全貌を聞かなくては!ああ今すぐにでもこの曲の作曲者を知らなくては!!」

熱病のようなその欲望はいつしか潮が引くように消えてしまったけれど、眠れぬ晩に弦楽のフォルティシモがよみがえり、瑠璃子を寝台から跳ね上がらせたりしたこともあったわよね。

それから数年後。
瑠璃子はパソコンの前に座って決然とブラウザを立ち上げていたわ。
「ダイヤモンドは永遠の輝き」「DeBeers」・・・
CMに散りばめられた企業名(と思われる名前)やキャッチコピーを頼りに、瑠璃子の探索は始まった。
そしてそれは案外早く決着を見たのだったわ!

「あ・・・、あった・・・」
それはYoutubeの片隅に当たり前の顔つきで転がっていた。
その時の安堵。静かな充足感。
何年もの間棚上げされていた激しい欲望が一挙に満たされた時、瑠璃子は春の日の木漏れ陽のような穏やかな気持ちになった・・・。

「そっか・・・。キミはPalladioって曲だったんだね・・・」
声に出すと不意に視界が滲んだ。
「こんにちは、Palladioさん。瑠璃子はずっとキミに会いたかったんだよ」
かつての熱情がよみがえってきた。爺やの暖かな笑顔が脳裏に浮かんだ。
こうなると滂沱だった。
湯気の立ちそうな熱い涙をこぼすまいと固く瞼を閉じて、大音響で全曲版を聴いた。
瑠璃子の幼年期との決別の時だった。・・・



書誌的(?)な事柄をまとめておきましょう。
まずこのCMは南アフリカのダイヤモンド会社・デビアス(DeBeers)のもの。
放映されたのは1994年。
使われた曲の名はPalladio。
作曲者は現代の英国人音楽家Karl Jenkins。
「使われた曲」というよりは、CMのために作曲された曲かもしれぬ。



さて冒頭に掲載したCM版はいかにも短かったですね。
全曲版はYoutubeにいくらでも存在します。
それどころかこの曲は全世界で熱狂的に愛されているらしく、ハープやエレキギター、マンドリン、様々なアレンジを施された版が存在しています。
皆さんもよければ聞いてみてください。

とりあえずは一番オーソドックスな原曲全曲版をここに載せておきましょう。



瑠璃子の耳がCM音楽に引き寄せられるのは、この曲との出会いがあったからだと言えそうです。