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CDで初めて耳にしてからはや幾年。
このためだけに苦手な飛行機に命を預け、東京から熊本へ「航道西征」してきました。
2014年2月11日、熊本県立劇場。
さあ、北原白秋作詞・信時潔作曲の「交声曲『海道東征』」、開演です。


 


往復の飛行機搭乗記や熊本のあんなことやこんなことはいずれ語らせていただくとしまして。 
2月11日は雲一つない澄み切った快晴。
JR豊肥本線の水前寺駅から歩いて熊本県立劇場へ。
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如何にも「県立劇場」という適度な前衛具合と適度な古び具合です。


午後13:30の開場とともに、ロビーを埋め尽くしていた観客が雪崩を打って会場に乗り込んでいきます。
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 これほど多くの方が聴きに来ているとは・・・!
それも杖をついて子や孫に手を引かれたご老人が多く、もしや遠い昔、海道東征の初演に触れた生き証人ではあるまいか!と興奮しましたが、確かめるすべもありません。

まあ恐らくは出演する市民合唱団のご友人や家族の方がかなり多いのだろうなとは想像しましたが、瑠璃子のように東京やもっと遠方から来ている人も随分含まれているに違いありません。


A4の大型パンフレットは2部構成。
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北原白秋の手で「海道東征」と書かれた本体と、全曲の歌詞と現代語訳の載った歌詞冊子。
主催者の本気が感じられる豪華な内容です。


こちらが本日の公演ポスター。『海道東征』をトリに据えて、なんと前半にはベートーベンの交響曲5番。
なんという「運命」のもったいない使い方でしょう。
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まず始まったのが、弦楽5部(ヴァイオリン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)による「絃楽四部合奏」。
信時潔がベルリン留学中に作曲した作品だそうです。
まるでブラームスの哀愁のような。派手でなく、取り立てて特徴的でもなく。しかし澄み切って美しい音でした。
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ちょっと剽軽でおかまっぽい指揮者の山田さんのおしゃべりを挟んでプログラムは「運命」へ。
力強く終曲すると、休憩を挟んで信時潔のピアノ小品集と合唱。
そしてとうとうやってきました。『海道東征』が。


始まりのあの笙のような弦楽の和音。
金雲棚引く日本画のような世界が音で表現されるのを生で初めて耳にすると、
「ああ、そう、これだわ・・・」
涙が滲みました。
正直なところ曲としてはやや単調に過ぎる部分があるとは思います。
しかし、始まりの部分の緊張感と輝かしい静かな煌めきは素晴らしいものだと思います。


演奏自体は、かなりゆったりとしたテンポが続いたこと、途中何度かソリストの呼吸が他と合わなかったこと等があって、手放しで称賛というわけにはいきませんでしたが、忘れがたい良い体験となりました。


お土産に『絃楽四部合奏』のスコアと『海道東征』ピアノ・合奏スコアを買いました。
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ところで今回のこの演奏会をきっかけに、産経新聞がルンルンと立ち騒いでいるようです。
瑠璃子がインターネットで読んだ子供のためのコラムには、なぜこの曲が戦後演奏されなくなったかとして、
「戦争で日本が負けた後は、国を愛する気持ちを持つのは良くないという空気が強くなって、あまり演奏されなくなった」と書かれていました。

う~ん・・・。
どうしてこんなに残念な言説しかこの曲には集まってこないんだろう。
国を愛する気持ちというのは、過ちを反省しないということなのかしら。